【中国権利侵害責任法 総論(1)】


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Q1 中国では、日本の不法行為法に相当するものはありますか?

A1 はい、権利侵害責任法というものがあります。不法行為法にあたるものとして、権利侵害責任法というものがあります。
中国では、民法の法典化の一環として1999年の「契約法」、2007年の「物権法」に引き続いて、2009年12月26日「侵権(権利侵害)責任法」(日本の不法行為法に相当する)が制定され、2010年7月1日から施行されました。

中国では、不法行為のことを何というの?権利侵害責任法は権利や利益の侵害があった際の紛争解決に必要となる重要な法律として、製造物責任を始めとして、自動車交通事故責任、医療損害責任、環境汚染責任、高度危険責任、飼育動物責任、物件損害責任等の責任類型を定めて、権利が侵害された場合の救済を幅広く規定しています。これにより、個人の権利を十分に保護する方向性が明確になりました。

中国権利侵害責任法の特色は、不法行為責任を債権から分離させ、独立して立法することにあります。この法律は、中国民法の法典化の一歩として、中国民法法典の確立に重要な意義をもっています。その主な内容は将来の民法典の構成部分になると思われます。しかも、この法律は、中国でビジネスを行う日系企業にとっても大きな影響を及ぼします。そのため、以下、この重要な法律の主な内容を紹介したいと思います。



Q2 「権利侵害責任法」制定の背景について説明して下さい。

A2 中国では、権利侵害の事件について、従来は、民法通則(1986年)における不法行為に関する規定および環境保護法、産品(製造物)質量法、消費者権益保護法、商標法、道路交通安全法などの個別法を適用していましたが、法律規定の衝突や法律適用の混乱などの問題がよく起こりました。これが権利侵害責任法の背景です。
一方、1986年に制定された「民法通則」は117条以下にわずか5条の条文で権利侵害責任を定めていますが、権利侵害責任事件の増加とともに、これらの法律条文では対応できないという問題ができました。法律の統一化や権利侵害責任事件の対応のため、権利侵害責任法の制定が必要になりました。

この法律は、「民事主体の合法的権益の保護、権利侵害責任の明確化、権利侵害行為の予防及び制裁、社会の調和と安定の促進」を目的とします。この背景とは違うんじゃ・・・



Q3 「権利侵害責任法」の制定過程について説明して下さい。

A3 侵権責任法の立法について、最初は、2002年に提出された民法典草案における一編(侵権責任法編)でしたが、民法典草案の立法の未審議により、民法典草案の一編としての侵権責任法の立法もできませんでした。その後、統一的な民法典の立法が放棄されました。その代わりに、民法典草案の編別ごとに単独に立法するという認識の一致がなされました。

この認識により、2007年に民法典の最も大事な部分である「物権法」が制定されます。その後、侵権責任法の立法案も提出されました。前後8回の審議を経て、2009年12月26日、第11回全国人民代表大会常務委員会第12次会議は、「中華人民共和国侵権責任法」を採択し、2010年7月1日より施行されました。

最近のことなのね~「中華人民共和国侵権責任法」は2010年7月1日より施行されました。



Q4 なぜ「侵権(権利侵害)責任法」という名称なのですか?

A4 日本の民法の709条から724条までは、不法行為に関する規定で、「不法行為法」ともいわれます。中国の「侵権(権利侵害)責任法」は日本の民法における「不法行為法」に相当します。
しかし、中国では、なぜ権利侵害責任法と称するのか?なぜ権利侵害責任法って呼ばれるの?日本でいう不法行為に似ていますが、違う部分もあるんですよ。
実は、法律の内容からみれば、中国の権利侵害責任法は、日本の不法行為法に類似しているが、異なっているところもあります。



Q5 日本の民法と何が違いますか?

A5 まず、権利侵害責任法と債権法との関連をご説明しなければなりません。

フランス民法典、ドイツ民法典および日本民法典からみれば、大陸法系の民法典において、不法行為は債権の発生原因の一つであり、不法行為法は債権法の一部であるとされています。そのため、これらの国には、独立した「不法行為法」が存在していないといえます。

これに対し、中国では、権利侵害は、不法行為によって債権を生じることだけではなく、すべての民事権利や利益を侵害する行為を指します。そのため、中国の権利侵害責任法は、債権法の一部のみならず、権利や利益が侵害された場合にどういう責任が生じるか、どういうルートでどのような方式で救済するかという基本点から制定された法律であるといえます。いろんな国の民法典盛り合わせで~す♪国によって内容が違うんですね。
フランス、ドイツおよび日本の民法典における不法行為法は、債権の発生原因としての不法行為に限定しているため、それに関する法律条文が少ないです。これに対して、中国の権利侵害責任法はすべての民事権利や利益が侵害された場合の責任を定めているから、法律条文が多いです。そして、法律適用の対象からみれば、中国の権利侵害責任法は、債権のみならず、生命権、健康権、氏名権、名誉権、栄誉権、肖像権、プライバシー権、婚姻自由権、後見権、所有権、用益物権、担保物権、著作権、特許権、商標専用権、発見の先取権、株主権、相続権など権利を適用します。さらに、権利侵害責任の方式からみれば、債権上の損害賠償だけでなく、侵害の停止、妨害排除、危険の除去、財産の返還、原状回復、謝罪、影響の除去、名誉の回復などの方式が定められています。

中国の権利侵害責任法によって、権利侵害責任の追及は必ずしも不法行為を発生原因とするわけではありません。例えば、高度危険活動区域または高度危険物保管区域への無断進入が発生したことにより他人に損害が生じた際、管理人はすでに安全措置を採用しかつ十分に警告義務を果たしても責任を負う可能性があります。この場合、管理人が不法行為を行っていませんが、無過失責任の原則に基づいて権利侵害責任を負います。したがって、不法行為は権利侵害責任の発生原因の一つですが、唯一の発生原因ではありません。そのため、この法律は、不法行為法ではなく、「権利侵害責任」と称されます。

実は、権利侵害責任法の立法過程において、この法律を「侵権(権利侵害)責任法」または「侵権(権利侵害)行為法」のどちらを称するかという争いがありました。ここでは、権利侵害責任法の本質は、権利侵害行為(行為説)または権利侵害責任(責任説)にあるかという2つの学説があります。最終、立法機関は、責任説を採用し、この法律を侵権(権利侵害)責任法と称することになりました。



Q6 権利侵害責任法の枠組みについて説明して下さい。

A6 権利侵害責任法は、総則と各則に分かれており、12章97条の規定からなります。具体的には、総則規定は第一章の一般規定、第二章の責任構成と責任方式、第三章の責任の免除および軽減、第四章の責任主体に関する特別規定が含まれます。この部分は、侵権責任法の適用範囲、帰責原則、賠償責任の算定、責任の免除や軽減の事由、共同侵権の責任など一般的な規定を定めています。

そして、第五章から第十一章までの各則は、各権利侵害責任の種類ごとに、それぞれに製造物責任、自動車交通事故責任、医療損害責任、環境汚染責任、高度危険責任、飼育動物責任、物件損害責任(ここでの「物件」とは、建築物、構築物またはその他の施設のみならず、積物、林木、公共の場所や道路にある穴などを含みます。日本の法律用語の中には、相当の用語がありません。「権利侵害責任法」各論(2)でこの責任を詳しく論じます。)の特別な規定を定めています。

権利侵害責任法の枠組みを味わってみるにゃ!12章97条で構成されます!返してください!!



Q7 権利侵害責任法の総則と各則の内容をさらに詳細に紹介して頂きたいのですが、
  まず、権利侵害責任における「権利」はどういう権利を指しますか?

A7 民事権益(権利や利益)を侵害した場合、権利侵害責任法に従って権利侵害責任を負わなければなりません。ここの「民事権益」は生命権、健康権、氏名権、名誉権、栄誉権、肖像権、プライバシー権、婚姻自由権、後見権、所有権、用益物権、担保物権、著作権、特許権、商標専用権、発見の先取権、株主権、相続権権利侵害責任法が保護されるのは、人身権と財産権だけですよ。などの人身、財産についての権利・利益を含みます。民事権益はいっぱいあるんだにゃ~
すなわち、権利侵害責任法が保護される権利・利益は、人身権と財産権に限定しています。具体的には、人身権は生命権、健康権、氏名権、名誉権、栄誉権、肖像権、プライバシー権などの人格権、および婚姻自由権、後見権などを、財産権は所有権、用益物権、担保物権などを含みます。そして、著作権、専利権、商標専用権、発見の先取権、株主権、相続権などは人身権と財産権の両方の属性をもっています。これらの権利・利益が侵害された場合、権利侵害責任法を適用することができます。



Q8 権利侵害責任法の原則について説明頂けますか?

A8 権利・利益が侵害された被侵害者は権利侵害者に対して、権利侵害責任を負うことを請求する権利を有します。そして、権利侵害責任は、法領域によって、刑事責任、民事責任と行政責任に分けられます。この三つの責任の関連について、権利侵害責任法は民事責任としての「権利侵害責任独立」の原則と民事的「権利侵害責任優先」の原則を確立しました。権利侵害責任法の原則について説明して~!「権利侵害責任独立」の原則と「権利侵害責任優先」の原則の2つがあります。
(1)「権利侵害責任独立」の原則
権利侵害者が同一の行為によって行政責任または刑事責任を負うことは、法に基づいて権利侵害責任を負うことには影響を及ぼしません。

(2)「権利侵害責任優先」の原則
同一の行為によって権利侵害責任、行政責任、刑事責任を負わなければならず、権利侵害者の財産により支給できない場合、権利侵害責任を優先して負わなければなりません。



Q9 権利侵害責任法とその他の個別法とどういう関連がありますか?

A9 権利侵害責任法は権利侵害責任に関する一般法ですが、その他の個別法の中に権利侵害責任について別段の特別規定がある場合、「特別法優先」の原則に基づいて、その特別な規定に従います。
関係はどうなの~?権利侵害責任法とその他の個別法でしたよね?



Q10 権利侵害の帰責原則について教えて下さい。

A10 中国の権利侵害責任法第6条と第7条では、権利侵害責任の帰責原則を明確化し、過失責任の原則、過失推定責任の原則及び無過失責任の原則の三つの帰責原則を定めています。実は「民法通則」および「特許法」、「商標法」、「環境保護法」などの個別法においても、この三つの帰責原則が採用されましたが、権利侵害責任法は、一般的な権利侵害行為に対して、統一的な帰責原則を定めています。

1 過失責任の原則
権利侵害責任法第6条は、「行為者が過失によって他人の民事権益を侵害した場合、権利侵害責任を負わなければなりません。」と規定しています。これは、「無過失責任」の原則といわれます。つまり、一般的な権利侵害行為は行為者の過失をその成立要件とします。この場合、一般的な権利侵害行為の成立要件は、①加害行為、②行為者の過失、③他人の民事権益の損害の発生、④加害行為と損害の間の因果関係、という四つの要件を含みます。
日本の不法行為法には、加害行為の違法性も侵権行為の成立要件の一つですが、中国の権利侵害責任法には、権利侵害行為の違法性を権利侵害行為の成立要件とするわけではありません。

2 過失推定責任の原則
上述の一般的な権利侵害行為に対する過失責任の原則を除き、権利侵害責任法第6条は、特別な権利侵害行為に対して、「法律規定を根拠に行為者に過失があったと推定され、行為者は自らに過失がないことを証明できない場合、権利侵害責任を負わなければならない。」と規定しています。これは、「過失推定責任」の原則といわれます。

3 無過失責任の原則
上述の過失責任および過失推定責任の原則は、行為者の過失を権利侵害行為の構成要件とします。これに対して、行為者の過失を権利侵害行為の成立要件としない帰責の原則もあります。権利侵害責任法第7条は、「行為者が他人の民事権益に損害を与えた際、行為者の過失の有無を問わず、法律において権利侵害責任を負わなければならないと規定されている場合、その規定に従う。」と規定しています。この場合、権利侵害行為の成立要件は、①他人の民事権益の損害の発生、②行為者の法定責任の2つを含みますが、行為者の過失の有無を成立要件としません。これは、「過無過失責任」の原則といわれます。

4 三つの帰責原則の関連
過失責任の原則は、一般的な権利侵害行為に対する帰責の原則ですが、過失推定責任の原則と無過失責任の原則は、特別な権利侵害行為に対する帰責の原則であり、個別法の特別な規定がある場合に限ります。つまり、法律の特別な規定がある場合、過失推定責任の原則または無過失責任の原則を適用することができますが、その他の場合、過失責任の原則を適用します。3つの奇跡なのね~☆ミ過失責任の原則、過失推定責任の原則、無過失責任の原則の三つの帰責原則が定められているんですよ。



Q11 複数の権利侵害行為者が存在する場合、その責任について教えて下さい。

A11 複数の権利侵害行為者の責任について、権利侵害責任法は、まず、行為者間の共同性の有無によって、その責任をそれぞれ定めています。すなわち、複数の行為者間に共同性がない場合、一般的な権利侵害行為責任と同じく、各行為者の責任をそれぞれに追及します。これに対して、複数の行為者間に共同性がある場合の権利侵害行為については、各行為者は連帯責任を負わなければなりません。これは、広義上の「共同権利侵害行為」といわれます。誰か助けて~これは!共同で権利侵害行為してますね!
複数の権利侵害行為者間の共同性に対する解釈について、「主観説」と「客観説」の対立があります。すなわち、複数の権利侵害行為者間の共同性の意味について、「主観説」は、行為者間の共同的故意または過失と解釈しますが、「客観説」は、損害結果の同一性と解釈します。この2つの学説に基づき、最高人民法院の「人身損害賠償に関する司法解釈」には、共同権利侵害行為は行為者間の意思連絡を成立要件とするかどうかによって、共同過失権利侵害行為と損害結果同一権利侵害行為に分けられています。

共同過失権利侵害行為とは、行為者間の共同的故意または過失に基づいて行われた権利侵害行為です。つまり、共同過失権利侵害行為は行為者間の意思連絡を共同行為の成立要件とします。これに対して、損害結果同一権利侵害行為は、複数の行為者の行為によって同一の損害結果が生じた場合に認められる共同行為です。つまり、損害結果同一権利侵害行為は、行為者間の意思連絡を成立要件としませんが、損害の結果を重視し、損害結果の同一性を成立要件とします。この点は、日本の民法と異なっています。



Q12 複数の権利侵害行為者の連帯責任には、どのようなパターンがありますか?

A12 中国の権利侵害責任法は、複数の権利侵害行為(広義的な共同権利侵害行為)を狭義的な共同権利侵害行為、教唆・幇助の行為、共同危険行為、客観的共同権利侵害行為(原因の競合)の四つに分けて、下記のように、それぞれにその連帯責任を定めています。もうだめ・・・(+_+)さぁ、これから連帯責任についてみていきましょう!
(1)共同権利侵害行為の連帯責任
共同権利侵害行為の連帯責任について、権利侵害責任法は、「二人以上が共同で権利侵害行為を実施し、他人に損害を与えた場合、連帯責任を負わなければならない。」と規定しています。民法通則の第130条もこのように定めています。これは、一般的な共同権利侵害行為の責任です。

(2)教唆・幇助行為の連帯責任
教唆・幇助行為とは、他人による権利侵害行為を教唆、幇助することです。この場合、教唆、幇助の行為者は、責任を負わなければなりません。具体的に、行為者の民事行為能力によって、教唆、幇助の行為者の責任も異なっています。

 ①行為者に民事行為能力がある場合
行為者が民事行為能力をもっている場合、行為者もその責任を負うため、教唆、幇助の行為者は、行為者と連帯責任を負わなければなりません。
 ②行為者の民事行為能力がない、または制限されている場合
行為者が民事行為能力をもっていないまたは制限されている場合、行為者がその責任を負わないまたは減軽するため、教唆、幇助の行為者は、権利侵害責任を負わなければなりません。ただし、当該の民事行為能力の無い者、民事行為を行うことを制限されている者の後見人は後見人としての責任を十分に果たしていなかった場合、相応の責任を負わなければなりません。

(3)共同危険行為の連帯責任
中国の権利侵害責任法は、共同危険行為を独立的な権利侵害行為として、「二人以上が他人の人身、財産の安全に危害を及ぼす行為を行い、そのうちの一人または数人の行為が他人に損害を与え、具体的な権利侵害者が特定できる場合は、権利侵害者が責任を負います。具体的な権利侵害者が特定できない場合は、行為者は連帯責任を負う。」と定めています。この点は、共同危険行為を「みなされる不法行為」として定める日本の民法719条と異なっています。この共同危険行為は①二人以上の他人の権利・利益に危害を及ぼす行為、②他人損害の結果、③複数の行為のうちの一人または数人の行為と他人損害との因果関係、④具体的な権利侵害者が特定できない、の四つの要件を成立要件とします。

(4)原因競合の場合の連帯責任
二人以上が別々に実施した権利侵害行為が同一の損害をもたらし、それぞれの権利侵害行為が全損害をもたらすに十分な行為である場合、行為者は連帯責任を負わなければなりません。これは、権利侵害の「原因の競合」といわれます。ここの「原因の競合」とは、二人以上が別々に実施した権利侵害行為が原因として競合され、それにより同一の損害結果をもたらしたものです。



Q13 複数の権利侵害行為者の責任分担について教えて下さい。

A13複数の権利侵害行為者の責任分担は、割合で分担するのと・・・
(1)割合で分担
二人以上が別々に実施した権利侵害行為が同一の損害をもたらし、責任の割合が確定できる場合、各自が相応の責任を負います。責任の割合を確定することが難しい場合、頭割りで賠償責任を負担します。

(2)連帯責任
法律において連帯責任を負うことが規定されている場合、権利の被侵害者は一部または全ての連帯責任者に対して責任を負うことを請求する権利を有します。

連帯責任者連帯責任があるんじゃ~!!は各自の責任の割合に基づいて相応の賠償金額を確定します。責任の割合を確定することが難しい場合は、頭割りで賠償責任を負担します。自らが負担するべき賠償金額を超える金額を支払った連帯責任者は、その他の連帯責任者に対して返還を求める権利を有します。