【中国権利侵害責任法 各論(2)】


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Q1 自動車交通事故の責任について適用されるルールについて教えて下さい。

A1 近年、中国においては経済の著しい発展により、自動車、特に民間自動車の保有台数は急速に増えつつあります。一方、道路交通事故発生率も年々増えています。この多発する交通事故をめぐって、中国では、厳しい法律を制定して、道路交通を法的に統制しています。

被害者が負傷あるいは死亡した場合には、加害者としての運転者は刑法上、交通肇事罪(刑法133条 ※日本の「危険運転致死傷罪」に相当する)の責任、民法上、損害賠償の責任(民法通則123条)を問われます。
自動車交通事故の責任について適用されるルールについて教えて下さい。
そのうち、道路交通事故による人身や財産の損害賠償事件に対しては、『民法通則』、『道路交通安全法』、『道路交通安全法実施条例』、および最高人民法院の『民事不法行為による精神損害賠償責任の確定に関する若干の問題の解釈』、『人身損害賠償事件の審理に当たって適用される法律に関する若干の問題の解釈』を適用します。




Q2 自動車交通事故においては、自動車運転者に「無過失責任」が適用されますか?

A2 『民法通則』123条は、交通機関の運転を高度な危険を与える作業として、無過失責任主義を採用しました。すなわち被害者の故意によって引き起こされたことを除き、加害者は民事賠償責任を負わなければなりません。


自動車交通事故においては、自動車運転者に「無過失責任」が適用されますか? 『道路交通安全法』76条は、民法123条と同じ、自動車の不法行為責任要件について、明文で「無過失責任」を定めます。すなわち非自動車運転者、歩行者の故意を除いて、原則的には、自動車側が過失の有無を問わず、非自動車運転者、歩行者との間に発生した交通事故について、その責任を負わなければなりません。





Q3 自動車交通事故の賠償についてですが、どこまでカバーされるか具体的内容を
  教えて下さい。

A3 具体的な賠償の内容については、まず人に傷害を加えた場合、加害者は被害者の医療費、就労不能により減少した収入、看護費、交通費、宿泊費、入院食事補助費、必要な栄養費を賠償しなければなりません。そして、被害者が後遺障害を残した場合、加害者は障害賠償金、障害補助器具費、被扶養者の生活費、また機能回復訓練介護、継続治療のため実際に発生した必要な機能回復訓練費、機能回復訓練介護費、後続治療費も賠償しなければなりません。自動車交通事故の賠償についてですが、どこまでカバーされるか具体的内容を教えて下さい。
次に、人を死亡させた場合、かかった医療費用以外に、加害者は葬儀費、被扶養者の生活費、死亡補償費および葬式を行うために必要とされる被害者親族の交通費、宿泊費、就労不能により減少した収入、およびその他の合理的な費用についても、加害者はこれを賠償しなければなりません。



Q4 権利侵害責任法において自動車交通事故責任はどう規定されていますか?

A4 前述の法令は自動車交通事故における侵害責任に関する主な規定ですが、権利侵害責任法第六章は、自動車交通事故に関する侵権責任について、『道路交通安全法』以外の民事的責任が規定されています。

ここでは、自動車の所有者と実際の運転者(不法行為者)が同一ではない場合の権利侵害責任の帰属について定めています。具体的には、以下の四つの類型があります。権利侵害責任法において自動車交通事故責任はどう規定されていますか?
(1)自動車賃借、借用の場合の権利侵害責任
賃借、借用等の理由で自動車の所有者と使用者が同一でないときに発生した交通事故の責任が当該自動車側に属する場合、保険会社は自動車強制保険の責任限度額の範囲内において賠償を行います。不足部分については自動車の使用者が賠償責任を負います。損害の発生について自動車の所有者に過失がある場合、相応の賠償責任を負います。

(2)自動車譲渡の場合の権利侵害責任
当事者間ですでに売買などの方式によって自動車の譲渡及び引渡しを行ったものの、まだ所有権移転登記を行っていない際に発生した交通事故の責任が当該自動車側に属する場合、保険会社は自動車強制保険の責任限度額の範囲内で賠償を行います。不足部分については譲渡される側が賠償責任を負います。
売買等の方式によって組み立てまたはすでに廃棄基準に達している自動車を譲渡し、交通事故の発生により損害が生じた場合は、譲渡人と被譲渡人が連帯責任を負います。

(3)窃盗、強盗、強奪などの犯罪行為の場合の権利侵害責任
窃盗、強盗または強奪した自動車による交通事故の発生によって損害が生じた場合、窃盗者、強盗者または強奪者が賠償責任を負います。保険会社は自動車強制保険の責任限度額の範囲内で緊急費用を立て替えた場合、交通事故の責任者に対して返還を求める権利を有します。

(4)事故発生後、逃亡の場合の権利侵害責任
自動車の運転者が交通事故発生後逃亡した場合の権利侵害責任の帰属は、交通事故を起こした自動車が強制保険に加入しているかいないかにより異なっています。

 ①強制保険に加入した場合
当該自動車が強制保険に加入している場合、保険会社は自動車強制保険の責任限度額の範囲内で賠償を行います。

 ②強制保険に加入していない場合
自動車が強制保険に加入しているか不明、または加入しておらず、権利侵害者の人身傷害に対する応急措置、葬儀等の費用を支払う必要がある場合は、道路交通事故社会救助基金が立て替えを行います。道路交通事故社会救助基金による立て替え後、その管理機関は交通事故の責任者に対して返還を求める権利を有します。



Q5 高度に危険な作業に従事している者が他人に損害を与えた場合の責任について
  教えて下さい。

A5 『民法通則』は高空、高圧、燃えやすい、爆発しやすい、猛毒、放射性など「高度危険」の作業に関する権利侵害責任に対して、「無過失責任」(厳格責任)の原則を採用し、作業者に高度な注意・管理義務を要請します。権利侵害責任法第九章は、より詳しい規定を定めています。

高度に危険な作業に従事している際に他人に損害を与えた場合、権利侵害責任を負わなければなりません。ここで、高度危険作業の責任は「無過失責任」の原則を適用します。すなわち、①高度危険作業の従事、②他人の損害、③高度危険作業と損害の因果関係の三つの要件が満たされると、高度危険作業者は権利侵害責任を負わなければなりません。 高度に危険な作業に従事している者が他人に損害を与えた場合の責任について教えて下さい。



Q6 高度危険作業にはどのような類型がありますか?

A6 以下の類型があります。

(1)核事故の責任
民間用核施設において核事故が発生し他人に損害を与えた場合、民間用核施設の経営者は権利侵害責任を負わなければなりません。ただし、損害が戦争等の状況または被害者の故意によって生じたものであることを証明できる場合は、責任を負わなくてもいいです。 高度危険作業にはどのような類型がありますか?
(2)民間用航空機の責任
民間用航空機が他人に損害を与えた場合、民間用航空機の経営者は権利侵害責任を負わなければなりません。ただし、損害が被害者の故意によって生じたものであることを証明できる場合は、責任を負わなくてもいいです。

(3)可燃物、爆発物、猛毒、放射性物質等の高度危険物の責任
 ①高度危険物の占有、使用の場合の責任
可燃物、爆発物、猛毒、放射性物質等の高度危険物の占有または使用により他人に損害を与えた場合、占有者または使用者は権利侵害責任を負わなければなりません。ただし、損害が被害者の故意または不可抗力によって生じたものであることを証明できる場合は、責任を負わなくてもいいです。損害の発生について権利被侵害者に重大な過失があった場合、占有者または使用者の責任を軽減することができます。

 ②高度危険物の遺失、遺棄の場合の責任
高度危険物の遺失、遺棄によって他人に損害を与えた場合、所有者が権利侵害責任を負います。所有者が高度危険物の管理を他人に任せていた場合、その管理人が権利侵害責任を負います。所有者に過失がある場合は、管理人と連帯責任を負います。

 ③高度危険物の不法占有の場合の責任
不法に高度危険物を占有したことによって他人に損害を与えた場合、不法占有者が権利侵害責任を負います。所有者、管理人は他人による不法占有の防止について高度な注意義務を果たしていたことを証明できない場合、不法占有者と連帯責任を負います。

(4)高空、高圧、高速作業の責任
高空、高圧下における活動及び地下掘削活動への従事、または高速鉄道輸送手段の使用により他人に損害を与えた場合、経営者は権利侵害責任を負わなければなりません。ただし、損害が被害者の故意または不可抗力によって生じたものであることを証明できる場合は、責任を負わなくてもいいです。損害の発生について権利被侵害者にも過失があった場合、経営者の責任を軽減することができます。



Q7 高度危険作業責任が免責される場合について教えて下さい。

A7 高度危険活動区域または高度危険物保管区域への無断進入が発生したことにより他人に損害が生じた際、管理人はすでに安全措置を採用しかつ十分に警告義務を果たしていた場合、責任が軽減されるか、または責任を負わなくてもいいです。高度危険作業責任が免責される場合について教えて下さい。



Q8 高度危険作業の賠償金額について教えて下さい。

A8 高度危険作業の賠償金額について、権利侵害法は明文で定めていない。ただし、「高度危険責任を負う際、特別な法律において賠償限度額が規定されている場合は、その規定に従う。」と規定しています。 高度危険作業の賠償金額について教えて下さい。



Q9 飼育している動物が他人にけがをさせた場合の責任について教えて下さい。

A9 『民法通則』は、「飼育の動物により他人を傷害させた場合、動物の飼育者または管理者は民事責任を負う」と規定しています。権利侵害責任法は、被害者の権利を保護するために、動物の飼育者や管理者の責任をより厳しく追及します。(第十章) 飼育している動物が他人にけがをさせた場合の責任について教えて下さい。
1 動物の飼育者・管理人の義務
動物を飼育する際は法律を遵守し、公徳を尊重しなければならず、他人の生活を妨害してはなりません。

2 動物の飼育者・管理人の責任
飼育している動物が他人に損害を与えた場合、動物の飼育者または管理人は権利侵害責任を負わなければなりません。ここでも、「無過失責任」を採用しています。ただし、免責事由として、損害が権利被侵害者の故意または重大な過失によって生じたものであることを証明できる場合、責任を負わなくてよいか、または責任が軽減されます。

3 特別な場合の動物飼育者・管理人の責任
(1)安全措置を採用していなかった場合
管理規定に違反して動物に対する安全措置を採用していなかったことにより他人に損害を与えた場合、動物の飼育者または管理人は権利侵害責任を負わなければなりません。

(2)飼育禁止の動物を飼育している場合
飼育が禁止されている獰猛犬などの危険動物が他人に損害を与えた場合、動物の飼育者または管理人は権利侵害責任を負わなければなりません。

(3)動物園の場合
動物園の動物が他人に損害を与えた場合、動物園は権利侵害責任を負わなければなりません。ただし、管理の職責を十分に果たしていたことを証明できる場合は、責任を負わなくてもいいです。

(4)遺棄または逃亡した動物の場合
遺棄または逃亡した動物が遺棄、逃亡の期間に他人に損害を与えた場合、元の動物の飼育者または管理人が権利侵害責任を負います。

4 第三者過失による損害の責任
第三者の過失により動物が他人に損害を与えた場合、権利被侵害者は動物の飼育者または管理人に対して賠償を請求することができ、また第三者に対して賠償を請求することができます。動物の飼育者または管理人は賠償を行った後、第三者に対して返還を求める権利を有します。



Q10 建築物や施設の管理者が負う責任について教えて下さい。

A10 権利侵害法は、後述のように、建築物、構築物などの「物件」について、その所有者、管理人、使用者などの権利侵害責任を定めています。ここの「物件」は、建築物、構築物またはその他の施設のみならず、積物、林木、公共の場所や道路にある穴などを含みます。 建築物や施設の管理者が負う責任について教えて下さい。



Q11 では、まず建築物、構築物またはその他の施設に関する責任について教えて下さい。

A11 以下、順次説明します。

(1)所有者、管理人、使用者の連帯責任
建築物、構築物またはその他の施設及びその置物や掛け物の脱落や墜落により他人に損害が生じた際、所有者、管理人または使用者は自らに過失がないことを証明できない場合、権利侵害責任を負わなければなりません。これは「過失推定」の原則といわれます。「過失の推定」とは、反証がない限り、過失があったものと判断することをいいます。すなわち、被害者が損害賠償の請求をする場合、侵害行為をする加害者は、一応過失によってその侵害行為を行ったものとして推定し、立証責任を転換するということです。

ここでは、建築物、構築物またはその他の施設の所有者、管理人または使用者は、自らに過失がないことを証明できない場合、その過失が存在すると推定されます。この過失はあくまで推定されるのであるから、損害賠償責任を免れるためには、過失がなかったことを証明する必要があります。
所有者、管理人または使用者は賠償を行った後、その他に責任者がいる場合は、その責任者に対して返還を求める権利を有します。 建築物、構築物またはその他の施設に関する責任について教えて下さい。
(2)建設組織と施工組織の連帯責任
建築物、構築物またはその他の施設の倒壊により他人に損害を与えた場合、建設組織と施工組織が連帯責任を負います。ここでは、「無過失責任」の原則を採用しています。
建設組織、施工組織は賠償を行った後、その他に責任者がいる場合は、その責任者に対して返還を求める権利を有します。

(3)第三者の責任
その他の責任者(第三者)の原因によって、建築物、構築物またはその他の設備が倒壊し他人に損害を与えた場合、その責任者が権利侵害責任を負担します。

(4)権利侵害者が特定できない場合の責任
建築物中から放擲された物品または建築物上から墜落した物品が他人に損害を与え、具体的な権利侵害者を特定することが難しい場合、自らが権利侵害者ではないことを証明することができる者を除き、加害を行った可能性がある建築物使用者が補償を行います。ここでは、「過失推定」の原則を採用しています。

ここで注意すべきことは、まず、責任者は加害を行った可能性がある建築物の使用者であること、そして、責任の方式については賠償ではなく、補償です。中国では、「補償」は違法な行為により発生したものではありません。例えば、土地収用に対する補償など。この点は、賠償と異なります。そして、金額からみれば、一般的に、「補償」の金額は賠償の金額より低いです。



Q12 その他の物件に関する責任について教えて下さい。

A12 以下、積物、材木切断、地下作業に分けて順次説明します。
1 積物に関する責任
(1)積物倒壊の責任
積物が倒壊して他人に損害が生じた際、積物を積んだ者は自らに過失がないことを証明できない場合、権利侵害責任を負わなければなりません。ここでは、「過失推定」の原則を採用しています。

(2)積物による通行妨害の責任
公共道路上において積まれた物品、崩れた物品、散らばった物品が通行を妨害し他人に損害を与えた場合、関連する組織または個人は権利侵害責任を負わなければなりません。ここでは、「無過失責任」の原則を採用しています。 その他の物件に関する責任について教えて下さい。
2 林木切断の場合の責任
林木の切断により他人に損害が生じた際、林木の所有者または管理人は自らに過失がないことを証明できない場合、権利侵害責任を負わなければなりません。ここでは、「過失推定」の原則を採用しています。

3 地下作業の場合の責任
公共の場所または道路上において穴を掘り、または地下施設の修繕及び設置を行う等する際に、明確な標識の設置や安全措置の採用を行わなかったことで他人損害を与えた場合、施工者は権利侵害責任を負わなければなりません。ここでは、施工者の責任は、「明確な標識の設置や安全措置の採用を行わなかった」場合に限定されます。
井戸等の地下施設により他人に損害が生じた際、管理人は管理の職責を十分に果たしていなかったことを証明できない場合、権利侵害責任を負わなければなりません。ここでは、「過失推定」の原則を採用しています。