|
|
|
A1 中国では、社会主義市場経済体制を実施しています。ビジネスなどの経済的活動をする際、行政機関の事前的許可や事後的監督管理が多いです。したがって、中国ビジネスをしている、または、しようとする日本企業や個人にとって、中国の行政機関および行政制度を理解することが必要となります。
今回は、中央行政機関である国務院およびその下での地方行政機関の法的地位、構成機関、権限、活動方式を紹介し、中国の行政制度を分析したいと思います。
A2 中国で一般的にいう、地方自治ではなく中央集権制を実施しています。中央行政機関は、国の最高の行政機関としての国務院です。
国務院の構成について述べましょう。
国務院は、総理、副総理数人、国務委員数人、各部部長、各委員会主任、審計長と秘書長によって構成されます（憲法86条）。
国務院総理は中華人民共和国主席が指名し、全国人民代表大会で決定し、国家主席が任免します。国務院副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、審計長、秘書長の人選は、国務院総理が指名し、全国人民代表大会で決定し、国家主席が任免し、全国人民代表大会の閉会の期間は、国務院総理の指名に基づき、全国人民代表大会常務委員会が部長、委員会主任、審計長、秘書長の人選を決定し、国家主席が任免します。
国務院の毎期の任期は5年となっています。総理、副総理、国務委員の連続任期は二期を超えてはなりません（憲法87条）。国務院副総理は総理に協力して仕事をします。国務委員は総理あるいは国務院常務会議の委託を受け、関連方面の仕事あるいは重要な特定の任務に責任を負い、そして国務院を代表し外事活動を処理することができます。審計長は国家財政および財務収支の仕事に対する監督を行います。秘書長は総理の指導の下で国務院の日常の仕事を処理します。
A3 国務院は下記の職権を有します。
① 憲法と法律によって、行政措置を規定し、行政法規を制定し、決定と命令を公布する。
② 全国人民代表大会あるいは全国人民代表大会常務委員会に議案を提出する。
③ 各部・委員会の任務と職責を規定し、各部・委員会の仕事を統一的に指導し、または各部・委員会以外 の全国的な行政の仕事を指導する。
④ 全国の地方各級国家行政機関の仕事を統一的に指導し、中央と省、自治区、直轄市の国家行政機関の職権の分掌を規定する。
⑤ 国民経済・社会発展計画、国家予算の編成と実行。
⑥ 経済活動と都市・農村建設に関する指導と管理。
⑦ 教育、科学文化、医療・衛生保健、スポーツ、計画出産に関する指導と管理。
⑧ 民政、公安、司法行政と監察に関する指導と管理。
⑨ 対外事務、外国との条約・協定の締結に関する管理。
⑩ 国防建設に関する指導と管理。
⑪ 民族事務に関する指導と管理を行い、少数民族の平等の権利と民族自治地方の自治の権利を保障する。
⑫ 華僑の正当な権利と利益を保護し、帰国華僑とその親族の合法的権利と利益を保護する。
⑬ 各部、委員会の公布する不適切な命令、規定を変更、廃止させる。
⑭ 地方各級行政機関の公布する不適切な命令、規定を変更させ、廃止させる。
⑮ 省・自治区・直轄市の区域分画を批准し、自治州、県、自治県、市の区域分画を批准する。
⑯ 省・自治区・直轄市の範囲内の一部の地域での戒厳令の発布。
⑰ 行政機関の組織構成を審査決定し、法律によって行政人員に対する任免、育成訓練、考課、懲罰を行う。
⑱ 全国人民代表大会と全国人民代表大会常務委員会から授与されたその他の職権。（憲法89条）
A4 （1）国務院弁公庁
国務院弁公庁は国務院の指導者を補佐して、日常的な事務を処理する内部的機関であり、国務院の文書管理、档案（保存書類）管理、会議準備、秘密保持、財務、情報処理、民間からの投書・来訪の受付を担当します。日本の内閣官房に相当します。
（2）国務院の部・委員会
部、委員会（中国人民銀行、審計署を含む）は国務院の最も重要な構成部門として、国務院の統一的指導の下で関連の行政事務に関する指導と管理を行い、特定の国家行政権限を行使します。すべての部、委員会の長は国務院の構成員です。
（3）国務院の直属特別機構
国務院の直属特別機構は国有資産監督管理委員会です。この委員会は次のような職権を有します。
① 企業国有資産価値の維持、増加を監督し、国有資産管理を強化する。国有企業の近代化を推進し、国有経済構造を戦略的に調整する。
② 国家を代表して大型企業に監事会を派遣し、日常活動を管理する。
③ 法的手続きを踏まえ、企業責任者の任免、審査、賞罰を執行する。社会主義市場経済や近代的企業制度に相応しい人材登用システムを構築し、国有企業改革を推進する。
④ 統計、照合を通じて、管理下の国有資産価値の維持、増加を監督管理し、国有資産出資者権益を保護する。
⑤ 国有資産管理に関する法規を起草、制定し、地方の国有資産管理を指導監督する。
（4）国務院の直属機構
国務院の直属機構は、国務院の統一的指導の下で特定の行政業務を担当する機構です。国務院直属機構はその行政的地位が部、委員会より低く、その設立、廃止、変更は国務院の会議で討議して決定します。
国務院直属機構の長は、国務院常務会議で討議して決定し、国務院総理がその任免を行いますが、国務院の構成人員ではありません。
（5）国務院の執務機構
国務院執務機構は国務院内部に設置された、総理を助けて特定事項を処理する専門的機構です。 国務院執務機構の設立、合併、廃止に関しては、国務院が決定し、その行政責任者は国務院総理が任免します。
（6）国務院の直属事業単位
国務院の直属事業単位は、国務院に属している事業単位（日本の独立法人に相当する）です。
A5 中国では中央集権制を実施しているため、地方においては、日本のような地方自治団体ではなく、中央行政機関である国務院の下での地方行政機関があります。
中国の行政区画は、憲法上、省級、県級、郷級の3級制をとるとされていますが、実際には、省級と県級の間にもう一つ地区級という級が増設され、図2のように、省級、地区級、県級、郷級という4級制がとられています。
A6 中国は34の省級地方から構成されています。
省級地方には、表1のように23の省（台湾を含む）、4の直轄市（北京、天津、上海、重慶）、5の民族自治区（広西壮族、寧夏回族、新疆ウイグル、内蒙古、西藏（チベット）および2の特別行政区（香港特別行政区、マカオ特別行政区）があります。
A7 省級地方の一級下のレベルである地区級地方には、地区（地方政府ではなく、省・自治区の出先機関）、地区級市（地級市）、自治州（民族自治区内設置）、盟（内蒙古自治区のみ設置）があります。そして直轄市の管轄下にある区（市轄区）もこの地区級相当とみなされます。
また、地区級市のうち、省・自治区政府の所在地である市、経済特区所在地の市および国務院の承認された市という「比較的大きな市」がある。「比較的大きな市」は地方性法規や地方規則を制定することができるほか、経済管理上省級地方に相当する権限が与えられています。
A9 農村地域における末端の地方であるには郷級地方には、「郷（農業人口が多い）」、「鎮（非農業人口が多い）」、「民族郷」があります。
「鎮」とは県政庁所在地もしくは農村の中で比較的商工業の発達した町のことです。郷級地方のうち、鎮は工商業を中心とし、人口が比較的集中している区域に設けられます。鎮の設置基準は、県政府の所在地か、又は人口が2万以上でそのうち非農業人口が10％以上、もしくは2万以下だが非農業人口が2千以上であることとなっています。
「民族郷」とは民族自治地方の補充形式として、郷に当たる少数民族の集まり住むところに設置する末端の地方政府のことです。当該地域において、少数民族の人口が全体の30％を超える場合に民族郷の設置を申請することができます。 
A10 省級地方政府は、省長、副省長、自治区主席、副主席、市長、副市長、秘書長、庁長、局長、委員会主任などによって構成されます。
そのうち、自治区の出席は少数民族の公民が担当します。省長、副省長、自治区主席、副主席、市長、副市長は、省・自治区・直轄市人民代表大会によって選出されます。
省・自治区・直轄市政府の責任者が選出された後、その長は二ヶ月以内に省・自治区・直轄市人民代表大会に対して、秘書長、庁長、局長、委員会主任の任命申請書を提出し、そして国務院に報告します。
省・自治区・直轄市政府の任期は毎期5年となっています。 
A11 地区級地方政府は、市長、副市長、秘書長、局長、委員会主任などによって構成されます。
市長、副市長は市人民代表大会で選出されます。秘書長、局長、委員会主任などその他の市政府構成メンバーは、市長、副市長が選出された後の二カ月以内に市長の指名によって、市人民代表大会常務委員会で決定し、省・自治区政府に報告します。
地区級地方政府の任期は毎期5年となっています。
A12 県級地方の県、県級市、区政府は、それぞれ県長、副県長、市長、副市長、区長、副区長と科長、副科長などによって構成されます。
県長、副県長、市長、副市長、区長、副区長は県、県級市、区人民代表大会で選出されます。県、県級市、区政府の局長、科長の任免は、県長、市長、区長の指名によって、県、県級市、区人民代表大会常務委員会で決定し、上級政府に報告します。
県、県級市、区政府の任期は毎期5年となっています。
A13 郷、民族郷、鎮政府は郷長・鎮長1人、副郷長・副鎮長若干名を置きます。そのうち、民族郷の郷長は少数民族の公民が担当します。
郷長、副郷長、鎮長、副鎮長は郷、民族郷、鎮の人民代表大会で選出されます。
郷、民族郷、鎮政府の任期は毎期5年となっています。 
A14 県以上の地方各級政府は法律で規定された権限によって、その行政区域内の経済、教育、科学、文化、医療・衛生、スポーツ事業、都市部・農村建設事業および財政、民政、公安、民族事務、司法行政、監察、計画出産などの行政の仕事を管理し、決定と命令を公布し、行政人員の任免、育成訓練、仕事の点検、奨励懲罰を行います。
省・直轄市政府は郷、民族郷、鎮の設置と区域区画を決定します。郷、民族郷、鎮政府は、郷、民族郷、鎮人民代表大会の決議および上級国家行政機関の決定と命令を履行し、その行政区域内の行政の仕事を管理します。
A15 地方各級政府は、その地方の人民代表大会に責任を負い、活動を報告します。県以上の地方各級政府は、その地方の人民代表大会の閉会期間において、その地方の人民代表大会常務委員会に責任を負い、活動を報告します。
地方各級政府はその上級国家行政機関に責任を負い、活動を報告します。全国の地方各級政府は国務院の統一的指導の下で仕事をする国家行政機関で、いずれも国務院に従います。 
A16 県以上の地方各級政府は、その直属部門およびその下の級の政府の仕事を指導し、その直属部門および下の級の政府の不適切な決定を変更・廃止させる権限を有します。県以上の地方各級政府には、会計検査機関が設置されます。
地方の各級機関は法律にもとづいて独自に会計検査監督権を行使し、その地方の政府と上級会計検査機関に責任を負います。
A18 中国では、図2（Q5参照）のようなピラミッド型の行政体系が形成されています。上級機関が財源や決定権を持ち、下級機関になるほど機能が細分化されたり、財源や決定権が小さく制限され、上下方向の統制がより強化されたりする傾向を持ちます。
そのうち、中央人民政府としての国務院は、国家最高権力機関の執行機関であり、国の最高行政機関であり、全国の行政機関に対する指導権をもっています。
国務院は全国の地方各級国家行政機関の活動を統一的に指揮・指導・監督することができます。そして、各レベルの地方政府は当該管轄地域における行政機関の活動を指揮・指導・監督することができます。 
A19 中国では行政機関の相互関係からみれば、中央集権制を実施しますが、行政機関の内部的管理体制からみれば、首長責任制を実施します。
例えば、国務院は総理責任制を実行します。
① 総理は国務院の活動を全面的に指導し、国務院を代表して全国人民代表大会およびその常務委員会に責任を負う。副総理、国務委員は総理に協力して仕事をし、秘書長、各部の部長、各委員会の主任、審計（会計検査）長と共に総理に責任を負う。
② 国務院の活動の重大問題について、総理は最後の決定権をもつ。
③ 総理は、全国人民代表大会およびその常務委員会に対し、副総理、国務委員、各部の部長、委員会の主任、審計長、秘書長の任免を提出する権限をもつ。
④ 国務院が公布した決定、命令、行政法規、全国人民代表大会及びその常務委員会に提出する提案、行政人員の任免は、総理の署名があってはじめて法律的効力をもつ。また、国務院の各部、各委員会は部長、委員会主任責任制を実行する。地方人民政府はそれぞれ省長、自治区主席、市長、州長、県長、区長、郷長、鎮長責任制を実行する。 
A20 民主集中制は中国国家制度の根本原則として、国家の行政機関は人代で選出され、人代に責任を負い、その監督を受けることを要求しています（憲法3条）。具体的には、人代およびその常務委員会は、次の形式で行政機関を監督します。
（1）特定活動報告の聴取と審議
各級人代常委会は、毎年いくつかの改革・発展・安定や大衆の切実な利益に関わり、社会的関心の高い重要問題を選び、同級政府からの特定活動報告を計画的に聴取・審議します（監督法8条）。
（2）予算の審査と承認
国務院は、毎年6月に、前年度の中央決算草案を全国人代常委会に提出し、承認を求めます。県級以上の地方各級政府は、毎年6月～9月に、前年度の同級の決算草案を同級の人代常委会に提出し、承認を求めます。決算草案は、同級の人代が承認した予算科目によって編制しなければならず、予算数、調整数、変更数及び執行数をそれぞれ明確し、説明を付けなければなりません（監督法第15条）。
（3）予算報告の聴取と審議
全国人代常委会は、全国人代の閉会期間において、国民経済、社会発展計画及び国家予算の執行過程において作成を要する部分的調整案を審査・承認することができます（憲法第67条第五号）。県級以上の地方人代常委会は、同級政府の提案に基づき、該当行政区域内の国民経済及び社会発展計画・予算についての部分的変更を決定するという職権を行使します（地方各級人代及び地方各級政府組織法第39条第五号）。
（4）計画の聴取と審議
国務院と県級以上の地方各級政府は毎年6月～9月に、同級の人代常委会に本年の上半期の国民経済と社会発展計画、予算の執行状況を報告しなければなりません（監督法第16条）。
また、国民経済と社会発展計画が人代で承認された後に、実施過程で部分的に調整しなければならない場合には、国務院と県級以上の地方各級政府は調整の方案を同級の人代常委会に提出して審査して承認を受けなければなりません（監督法第17条）。
（5）会計検査報告の聴取と審議
会計検査機関が提出した会計検査報告の内容について、人代常委会は、聴取し審議しなければなりません（監督法第19条）。
（6）罷免
全国人代会は、国務院の構成員を罷免する権限を有します（憲法第63条）。地方各級人代会は、同級の政府の長・副長を罷免することができます（憲法第101条）。 
A21 上述の外部的監督以外、行政機関の内部的監督があります。この内部的監督は上級行政機関による監督、専門監督機関による監督を含んでいます。上級行政機関あるいは行政指導者は下級行政機関およびその行政人員に対し監督を実行する権限があります。
上級行政機関の下級に対する監督は、一般に、下級の不適切な決定、命令の取り消し、下級の人員に対する考査、奨励、懲罰、下級の活動に対する検査、督促などによって行われます。
そして、専門監督機関による監督とは、行政監察機関や国家審計機関という専門的監督機関による監督です。
行政監察機関は、検査、調査と処理などの方法によって国家行政機関とその行政人員に対し監督を行います。
国家審計機関は、行政機関の財政、財務、経済活動に対し全面的監督と評価を行うという方式を通じ、国の予算の配分と使用を監督し、国の財政経済活動の違法行為を防止、是正します。
