【中国の司法機関と司法制度】


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Q1 中国ビジネスにおいて法的紛争が発生した時、司法的解決が必要な場面もあると思います。
  中国の司法機関について教えてください。

A1 中国の司法機関には、広義には裁判機関である人民法院、法律監督機関である人民検察院、犯罪捜査機関である公安機関、刑事施設である監獄機構が含まれます。さらに、広義的な司法はこれらの司法機関が訴訟事件・非訴訟事件を処理する活動以外にも、仲裁組織、弁護士などが訴訟事件・非訴訟事件を処理・参与する活動をも含んでいます。トラブル発生です!!!
しかし、狭義の意味上の司法機関と司法制度は、人民法院と裁判制度、人民検察院と検察制度のみを指します。中国でビジネスをしている場合、中国企業との間で法的紛争が発生することは避けられないでしょう。
中国の司法機関、司法制度を理解することが必要ですね。
したがって中国ビジネスをしている、または、しようとする日本企業や個人にとって、中国の司法機関と司法制度を理解することが必要です。

今回のセミナーでは、人民法院と裁判制度、人民検察院と検察制度、司法独立問題と司法改革について紹介していこうと思います。



Q2 中国の人民法院について教えてください。

A2 中国の人民法院(日本の裁判所に相当する)は国の裁判機関として、国の裁判権を行使します。まず人民法院のシステムについてお話しましょう。
人民法院は国家権力機関としての人民代表大会で選出され、人民代表大会に責任を負い、その監督を受けます(憲法3条)。したがって、段階別に分けると、人民法院の組織も中央、省級地方、地区級地方、県級地方という行政区画に基づいて設置されています。人民法院って何なの?
つまり、図1のように最高人民法院、高級人民法院、中級人民法院、基層人民法院の4段階に分かれているのです。最高人民法院は中国の首都である北京に設置されています。

高級人民法院には、省・自治区・直轄市高級人民法院があり、各省・自治区・直轄市の首府に設置されています。
中級人民法院には地区級市・自治州の中級人民法院があり、地区級市・自治州の政府所在地に設置されています。
基層人民法院には、県・自治県・県級市・市管轄区の基層人民法院があり、その政府所在地に設置されています。
郷級地方では、独立の人民法院は設置されていませんが、基層人民法院に属する派出法廷が設置されています。
基層人民法院には、一部に出先機関である人民法廷を設けているほか、地方・企業などの民衆的な調停組織である人民調停委員会の活動を指導しています。
一般的法院と専門人民法院があります。
上下級人民法院の相互関係からみれば、直接な指揮・指導関係ではないが、監督と被監督の関係となっています。すなわち、各級の地方人民法院の裁判活動は最高人民法院および上級法院の監督を受けます。

これらの一般的法院以外、軍事法院、鉄道運輸法院、森林法院、海事法院などの専門人民法院があります。一般的法院は行政区画によって設けられていますが、専門法院は必要に基づいて設けられます。そして、一般的法院は、民事、刑事、行政事件について裁判権を有しますが、専門法院はその専門に関する必要な裁判権のみを有します。
なお、専門人民法院は、中級人民法院のレベルに相当します。

中国の人民法院システム



Q3 中国の裁判は日本と同じ三審制を採用していますか?

A3 中国の裁判は、「四級二審終審制」が採用されています。すなわち、原則として、基層人民法院を第一審裁判所として、中級人民法院を第二審(最終審)裁判所とします。

「四級二審終審制」とは、中国では、最高人民法院、高級人民法院、中級人民法院、基層人民法院の4段階の法院がありますが、原則として、一つの事件に対する審理は一、二級法院が判決と裁定を行って終わることをいいます。 三審制なの?中国では「四級二審終審制」が採用されています。



Q4 それでは、最高人民法院は何を扱うのでしょうか?

A4 分かりました。最高人民法院の管轄範囲についてお話しましょう。最高人民法院についてお話しますね。
最高人民法院は、第一審事件として、全国において影響が著しく大きな案件、または本院での審理が必要とされる案件を管轄します。また、高級人民法院の判決と裁定に対し上訴あるいは控訴をする事件、人民検察院が裁判監督のプロセスによって提出した控訴事件を裁判し、死刑の判決を下す事件を審査して認可します。最高の人民法院なのね!!



Q5 高級人民法院は何を扱いますか?

A5 高級人民法院は、本管轄区(省級行政区)において重大かつ複雑な第一審の案件、下級人民法院が移送してきた第一審事件を管轄します。本管轄区において重大かつ複雑な第一審の案件などを扱っています。高級の人民法院では何をするの?
また、中級人民法院の判決と裁定に対し上訴あるいは控訴をする事件、人民検察院が裁判監督のプロセスによって提出した控訴事件を裁判します。






Q6 中級人民法院の管轄範囲について教えてください。

中級人民法院では~? A6 中級人民法院は当該管轄区内の重大かつ複雑な事件、具体的には、

民事訴訟については、重大な渉外事件、当該管轄区内の大きな影響のある事件、最高人民法院が中級人民法院を指定して管轄する事件、
刑事訴訟については、国の安全に危害をもたらす事件、死刑と無期懲役の判決の可能がある事件、外国人が罪を犯すかあるいは中国公民が外国人の合法的権益を侵害する刑事事件、
行政訴訟については、発明の特許権を確認する事件、税関が処理する事件、国務院の各部、省・自治区・直轄市人民政府の具体的な行政行為に対して訴訟を提出する事件を管轄します。

また、基層人民法院が判決あるいは裁定をおこなう上訴事件と控訴事件を審判します。当該管轄区内の重大かつ複雑な事件を扱っています。



Q7 基層人民法院の管轄範囲について教えてください。

A7 基層人民法院は、法律が別に規定したものを除き、民事、刑事、行政事件を裁判する一審事件を管轄します。基層人民法院は、民事、刑事、行政事件を裁判する一審事件をするところなのね。
専門人民法院は特定の事件を扱います。なお、専門人民法院は、法律が規定した特定の事件を管轄します。





Q8 人民法院の構成員について教えてください。

A8 人民法院は、院長、副院長、及び各裁判廷の廷長、副廷長、裁判員(法官)、助理裁判員(裁判員補佐)、書記員(記録者)、法警(執行員)などから構成されます。年齢が満23歳以上の公民で、法律の専門知識がないと選挙に出られません。
人民法院の院長と副院長、法廷長と副法廷長、審判員と審判員補佐および人民陪審員は選挙権、被選挙権を有します。年齢が満23歳以上の公民で法律専門知識を身につけたものでなければなりません。その任免について、最高人民法院の院長は全国人民代表大会により選挙され、副院長、及び各裁判廷の廷長、副廷長、裁判員(法官)は同常務委員会に任免されます。地方各級人民法院の構成員は、同級地方人民代表大会及び同常務委員会に選挙(中級人民法院の院長からは任免)、任免されます。院長の任期は各級人民代表大会の任期と一致します。院長といっても病院の院長ではないよ



Q9 人民法院の内部的組織について教えてください。

A9 以下の通りです。審判委員会と法廷の2つに分けられます。
(1)審判委員会
各級人民法院は内部的機構として、審判委員会を設置する。審判委員会委員は法院院長が提出し、同級の人民代表大会常務委員会が任免します。
審判委員会は、重大、複雑な審理事件、審判の経験、その他の審判の仕事にかかわる問題を討論します。
人民法院の内部はどうなってるの?
(2)法廷
人民法院には一般的に立案廷、民事審判廷、刑事審判廷、行政審判廷、審判監督廷及び執行廷があります。
また、中級人民法院は一般的に知的財産権審判廷も設けています。



Q10 裁判の制度について、二審終審制(Q3)の他に何があるか教えてください。

A10 まず、審判公開です。中国では国家機密と個人のプライバシー等に関する事件を除き、審判の公開が原則とされます。すなわち、「人民法院は事件を審理するとき、法律に定められた特殊な状況を除き、一律に公開して行う」(憲法125条)。二審終審制の他は何があるの?
ここの「法律に定められた特殊な状況」とは、国家機密にかかわる事件、個人のプライバシーにかかわる事件、未成年者の犯罪事件などを指します。

次に、合議制度です。人民法院の審判組織形態として、合議法廷と独任法廷があります。

合議法廷とは、三人以上の審判員あるいは審判員と人民陪審員が集団で事件を審判する組織形態です。独任法廷とは、審判員が独自で簡単な事件を審判する組織形態です。第一審の刑事自己訴訟事件とその他の軽微な刑事事件、末端人民法院とその派遣した人民法廷が審判した簡単な民事事件と経済紛争事件について、独任法廷が審判することができるが、これらの簡易事件以外、合議法廷によって審判します。第二審の事件、再審事件、死刑判決再審事件はすべて合議法廷が審判します。 審判の公開や合議制度があります。



Q11 日本の忌避に相当する制度はありますか?

A11 回避制度という制度があります。
回避制度とは、裁判の公平・公正及びそれに対する国民の信頼を確保するため、事件あるいは事件の当事者との特殊な関係がある担当裁判官を事件の職務の執行から排除する制度です。回避の範囲は、中国では「回避制度」というものがあります。
① 事件の当事者あるいは当事者の親族
② 本人あるいはその親族が本事件と利害関係があるもの
③ 事件の証人、鑑定人、弁護人あるいは付随民事訴訟の当事者の代理人を担当したもの
④ 事件の当事者とその他のつながりがあり、事件の公正な処理にひびく可能性があるもの日本では「忌避」だけど…。

を含みます。






Q12 刑事手続の中で弁護権は保障されていますか?

A12 弁護権とは、刑事訴訟手続のうえで、被疑者・被告人がその正当な利益を擁護する権利。憲法と法院組織法は、被告人は弁護を獲得する権利があることを定めています。被疑者や被告人には弁護権が認められています。
被告人の親戚や友人も弁護人になれるんだって…。中国の刑事訴訟法では、弁護人は捜査機関が検察機関に起訴請求した時点から事件の弁護に参加することが認められます。弁護士、人民団体あるいは犯罪容疑者・被告人の勤務している部門が推薦したもの、犯罪容疑者・被告人の監護者・親戚および友人が弁護人となることができます。



Q13 日本の検察に相当する組織について教えてください。

A13 分かりました。人民検察院と検察制度について説明しましょう。中国の人民検察院(日本の検察庁に相当する)は国の法律監督機関として、国の検察権を行使します。
人民検察院と検察制度について説明しますね。
まず、人民検察院システムについて説明しましょう。人民検察院は国家権力機関としての人民代表大会で選出され、人民代表大会に責任を負い、その監督を受けます(憲法3条)。したがって、人民検察院の組織も中央、省級地方、地区級地方、県級地方という行政区画に基づいて設置されています。

すなわち、図2のように最高人民検察院、省・自治区・直轄市人民検察院、市・自治州人民検察院または省・自治区・直轄市人民検察院分院、県・県級市・自治県・市轄区人民検察院の4段階に分かれます。
郷級地方では、人民検察院が設置されていません。この一般的検察院以外、軍事検察院、鉄道輸送検察院など専門検察院を設置しています。

中国人民法院システム郷級地方には人民検察院がないのね~!



Q14 人民検察院の職権について教えてください。

A14 人民検察院は、各級の人民法院に対応して設置されています。その主たる任務は、逮捕・起訴の可否の決定、公訴の提起・維持、刑事事件の判決の執行です。また、人民検察院は、刑事事件に限らず、第一審判決に誤りがあると認めるときは、その判決が既に効力を生じたか否かを問わず、上訴の手続(抗訴)をとることができます。具体的にいえば、人民検察院は次の職権を行使します。人民検察院にはこのような職権があります。いろんな仕事があるんだにゃ。
① 国を裏切り、分裂させる事件および国の政策、法律、法令、政令の統一実施をひどく破壊する重大な犯罪事件に対し、検察権を行使する。
② 直接受理した刑事事件に対し取り調べを行う。
③ 公安機関、国家安全機関の捜査する事件に対し審査を行い、逮捕、起訴するかどうかを決定し、また、捜査活動が合法的であるかどうかを監督する。
④ 刑事事件に対する公訴を提出、支持する。人民法院の審判の仕事が法に基づいて行われているかどうかを監視する。
⑤ 刑事事件の判決、裁定の執行および刑務所、拘留所、労働矯正機関の仕事が法に基づいて行われているかどうかを監視する。
⑥ 人民法院の民事、行政上の審判に対して監視を行う。



Q15 人民検察院の構成員について教えてください。

A15  人民検察院は、院長、副院長、検察委員会長、検察委員会委員、検察員(検察官)、助理検察員(検察員補佐)などから構成されます。人民検察院にはどんな人がいるの?
その任免について検察長は同級人民代表大会で選出、任免されますが、地方の各級人民検察院検察長の任免は一級上の人民検察院検察長に報告し、同級人民代表大会常務委員会の認可を受けます。

副検察長は、検察委員会委員、検察員は同院検察長が指名し、同級人民代表大会常務委員会が任免し、検察員補佐は同院検察長が任免します。 院長、副院長、検察委員会長、検察委員会委員、検察員(検察官)、助理検察員(検察員補佐)などで構成されています。



Q16 人民検察院の内部的機構について教えてください。

A16 人民検察院内の内部的機構としては、検察委員会およびその他の検察機構があります。検察委員会と検察機構があります。

(1)検察委員会
各級人民検察院には検察委員会を設置し、民主集中制を実行し、検察長の指導のもとに、重大な事件およびその他の重大な問題を討論し、決定を行います。
多数決原理を取らない点は法院内の裁判委員会と異なり、検察長は重大な事案に関する多数決意見に同意しない場合、同級人民代表大会常務委員会に報告し、決定してもらうこととなります。人民検察院の内部はどうなってるの??
(2)検察機構
検察院には、刑事検察、経済検察、規律検察、監視検察、民事検察、行政検察などの専門業務機構が設けられています。
そのほか、汚職対策局、告発センターを設置し、汚職、贈収賄、職務怠慢、権利侵害などの犯罪を取り調べます。



Q17 中国に「司法の独立」はありますか?

A17 中国では、憲法及び法院組織法に人民法院が裁判権を独立して行使する旨の規定があります。
例えば憲法では、「人民法院は、国の裁判機関として、法律に従い独立的に職権を行使し、行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない」と規定しています(憲法第123条、第126条)。

しかし、民主集中制に基づき個々の裁判官の独立ではなく、全体としての人民法院の裁判独立のみが認められます。さらに、人民法院は同級の人民代表大会およびその常務委員会、同級政府、上級の人民法院、当該法院の院長や院長・副院長・各廷長から構成される裁判委員会、検察院および同級の共産党委員会の監督の下で、裁判を行わなければならないという裁判監督制度が定められています。 アタシも先生から独立しようかにゃ。・・・。



Q18 中国で行われている司法改革について教えてください。

A18 中国では、地方保護主義、裁判官の資質、裁判所の行政組織、裁判手続、判決の執行および司法腐敗などの問題点が存在しています。したがって、司法改革が焦眉の問題として取り組まれています。

1999年、最高人民法院は「人民法院五年改革綱要」を打ち出し、「改革の必要が急務である」と訴えました。人民法院の司法体制やその業務機構の改革を徹底することを示しました。司法改革!!!!
そして、2009年3月に、「人民法院第三次五カ年改革綱要」を発布し、社会の公平と正義を守り、大衆の司法に対する新たな要請や期待を満たすために、人民法院の職権配置の最適化、刑事処罰の緩和及び厳格化政策の実行、人民法院における組織の強化、人民法院の経費保障の強化、司法の国民利用しやすい業務体制の健全化などの具体的な措置を通じて、人民法院の司法体制及びその業務機構の改革を徹底することを示しました。