【中国の財産制度と土地制度】


前へ次へ

Q1 中国は社会主義ですよね。私有財産は認められていますか?ビジネスをする上で不安です。

A1 財産を法的に保護することは、ビジネス上いうまでもない前提条件です。しかし、社会主義国である中国では、「社会主義公有制」を根本的財産制度としています。財産は守られるのかにゃ…。そんなに沢山あるんですか?
現行の1982年憲法には、「社会主義の公共財産は神聖にして不可侵である(憲法10条)」と規定していますが、私有財産の保護について明文で定めていませんでした。私有財産の保護のため、2004年の憲法改正は、「個人経営、私営経済など非公有制経済は社会主義経済の重要な構成部分である。国家は、個人経済、私営経済の合法的な権利と利益を保護する(憲法11条)」と私有財産権の保障が明記されました。

さらに、2007年に制定された「物権法」は、私有財産の保護を明文化する他にも、公共財産と私有財産の平等保護原則を初めて確立しました(物権法4条)。

日本と比べると、中国の財産制度はかなり複雑であると思っている人が決して少なくないでしょう。今回は、中国の国家所有、集団所有、私人所有という財産所有制を紹介し、特に、最も重要な財産である土地を例として、その所有権、使用権、転売および収用などを分析したいと思います。



Q2 中国の財産所有制度の大枠を教えてください。

A2 所有権者は自己の財産に対して、法により占有、使用、収益、処分する権利を有します(物権法39条)。この意味で、「財産所有権とは、所有者が法により自己の財産に対して占有・使用・収益及び処分する権利である(『民法通則』71条)」。憲法や民法では、図1にみるように、所有制に着目し、財産所有制を公有制(全人民所有権と労働大衆の集団所有権を含む)と私有制(国民個人所有権と私営経済組織所有権を含む)に分けています。財産所有制度の中身は??
3種類に分かれています。すなわち中国では、所有権の主体を基準に、財産を国家所有財産、集団所有財産、私人所有財産(国民個人所有財産と私営経済組織所有財産を含む)の三種類に分けています。




中国における財産所有制度




Q3 国家所有財産について教えてください。

A3 では、国家所有財産の主体についてお話しましょう。国家所有財産の主体についてお話します。
国家所有権とは、法律で国家所有(すなわち全人民所有)に属することを規定した財産の所有権です。しかし、現実には、全人民所有を実現することはできないでしょう。

したがって、国家所有財産(国有財産)は国務院が国家を代表して所有権を行使します(物権法45条)。国家機関は、その直接支配する不動産、動産に対して占有、使用する権利、および法律、行政法規に基づいて処分する権利を有します。国有財産は国務院が国家を代表して所有権を行使するんだね。
国有事業単位は、その直接支配する不動産、動産に対して占有、使用する権利、及び法律、行政法規に基づいて収益、処分する権利を有します。国有企業については、国務院、地方人民政府が法律、行政法規に基づき、それぞれ国家を代表して出資者の職責を履行し、出資者としての権益を享有します(物権法53~55条)。

しかし、国有企業は、法律が定める範囲内で自主的に経営する権限を有します。国有企業は、法律の規定にもとづいて、職員労働者代表大会およびその他の形態により、民主的管理を実行します(憲法16条)。



Q4 国家所有財産には何が含まれますか?

A4 国家所有の財産には、次のものが含まれます。国家所有財産には何が含まれますか?国家所有財産はこれらのものが含まれます。
① 鉱物資源、水流、海域
② 都市の土地、法律で国家所有に属することを規定した農村及び都市郊外の土地
③ 森林、山嶺、草原、荒地、砂洲地等の自然資源(法律で集団所有に属すると規定している場合を除く)
④ 法律で国家所有に属すると規定する野生動物資源
⑤ 無線電信周波数スペクトル資源
⑥ 法律で国家所有に属すると規定する文物
⑦ 国防資産および鉄道、自動車道路、電力施設、電信施設、天然ガスパイプライン等の基礎施設など(物権法46~52条)



Q5 国家所有財産は法律の保護を受けますか?

A5 国家所有の財産は、法律の保護を受けます。国家所有の財産は保護してもらえるの?
いかなる単位、個人による横領、略奪、不正分割、不正留置、破壊も禁止されます。国有財産の管理、監督の職責を履行する機関およびその職員は、法により国有財産に対する管理、監督を強化し、国有財産の価値の維持、増進を促進し、国有財産の損失を防止しなければなりません。

職権を乱用し、職務を懈怠し、国有財産の損失をもたらした場合は、法により法律責任を負わなければなりません。

国有財産の損失をもたらした場合は、法により責任を負わなければなりません。国有財産管理規定に違反して、企業の制度改革[改制]、合併・分割、関連取引の過程で、低価で譲渡したり、共謀して不正分割をなしたり、独断で担保に供したり、その他の方式で国有財産の損失をもたらした場合は、法により法律責任を負わなければなりません(物権法56、57条)。



Q6 次に集団所有財産について教えてください。

A6 分かりました。ここでも集団所有財産の主体からお話しましょう。

集団所有権とは、法律で集団所有に属することを規定した財産の所有権です。集団所有権の法的性質については、共有説、総有説、社区説などの学説が存在しています。権利主体からみれば、集団財産は、本集団の構成員の個人的所有ではなく、本集団の構成員の集団的所有に属する。
しかし、集団は直接に所有権を行使することが難しいでしょう。したがって、集団所有権を行使する代表を定める必要があります。集団所有権ってにゃあに~?
例えば、農民集団所有権の行使について、

法律で集団所有に属することを規定した財産の所有権です。法的性質についてはいろんな学説があります。① 村の農民集団所有に属するものは、村の集団経済組織または村民委員会が集団を代表して所有権を行使すること、
② それぞれ村内の二つ以上の農民集団所有に属するものは、村内の各当該集団経済組織または村民小組が集団を代表して所有権を行使すること、
③ 郷鎮の農民集団所有に属するもの

上記は、郷鎮集団経済組織が集団を代表して所有権を行使することになります。(物権法60条)





Q7 集団所有財産には何が含まれますか?

A7 集団所有の財産には、次のものが含まれます。集団所有の財産には下記のものが含まれます。
集団所有財産にはどんなものがあるの? ○法律で集団所有に属すると規定する土地、森林、山嶺、草原、荒地、砂洲、
○集団所有の建築物、生産施設、農田水利施設、
○集団所有の教育、科学、文化、衛生、体育等の施設、
○集団所有のその他の不動産と動産。(物権法58条)





Q8 集団所有財産は法律の保護を受けますか?

A8 集団所有権は法律の保護を受けます。
いかなる単位、個人による横領、略奪、不正分割、破壊も禁止されます。集団所有権の保護するために、集団経済組織または村民委員会、村民小組は法律、行政法規、章程、村規民約にもとづいて本集団構成員に対して集団財産の状況について公表しなければなりません。

さらに、集団経済組織、村民委員会またはその責任者が下した決定によって集団構成員の合法的権益が侵害されたときは、侵害を受けた集団の構成員は人民法院にその取消を請求することができます(物権法62・63条)。 法律の保護を受けますよ。集団所有財産は法律の保護を受けるんですか?



Q9 私人所有財産は保護されますか?

A9 気になるところでしょう。まず、私人所有財産の主体からお話しましょう。気になりますよね。お話しましょう。
私人所有権とは、法律で私人所有に属することを規定した財産の所有権です。ここの「私人」は、国家・集団以外の個人、私営経済組織などを指します。そのうち、私営経済組織には、法人及びその他の法人の資格をもっていない組織が含まれます。

私人はその合法的収入、建物、生活用品、生産手段、原材料等の不動産と動産に対して所有権を有します(物権法64条)。法律で国家所有や集団所有に属すると規定する土地、森林、山嶺、草原、荒地、砂洲などの財産は私人所有の財産になれません。

法律が定める範囲内の個人経済、私営経済などの非公有制経済は、社会主義的市場経済の重要な構成部分です。国は個人経済、私営経済などの非公有制経済の合法的権利および利益は保護されます。国は非公有制経済の発展を奨励、支持およびリードし、非公有制経済に対して法にもとづいて監督と管理を実行します(憲法11条)。

私人の合法的財産は法的保護を受けます。いかなる単位、個人による横領、略奪、破壊も禁止されます。私人の合法的な貯蓄、投資およびその収益は法的保護を受けます。国家は法律の規定に基づき私人の相続権およびその他の合法的権益は保護されます(憲法11、13条・物権法65、66条)。 私の財産は保護されるのかにゃ?



Q10 中国で土地の所有権は認められますか?

A10 中国では土地の私有を認めておらず、土地の社会主義公有制を実施しています。

土地所有権の公有制は都市部の全人民所有(国家所有)と農村部の村集団所有に分けられています。全人民所有(国家所有)制とは、国家所有の土地の所有権を国務院が国家を代表して行使することです(土地管理法2条1・2項)。村集団所有制とは、国家所有以外の土地の所有権を農民の集団である村集団が行使することです。
土地の所有権はどうなるのー?!
具体的には、「都市の土地は、国家所有に属する。農村と都市の郊外の土地は、法律で国家所有に属すると規定されているものを除いて集団所有に属し、宅地、自留地、自留山も集団所有に属する。」と定められています(憲法10条1項)。

すなわち、集団所有地は各農村の経済組織に属する農民が共同して農業を営み、農民の経済生活を豊かにすることを目的としてその集団所有を認められた土地であり、農業用地だけではなく、農民の住宅地、郷鎮企業の建物建設などの建設用地を含みます。

そして、集団所有とは農民自身ではなく、村という地域内の成員である農民全体によって構成される村集団がその地域の農地を所有するものです。このような所有権は、民法上の法人所有権及び非法人組織所有権と同じものではなく、憲法上の特有な概念です。

そのため、村集団の土地所有権、村民の土地使用権及びその関係は、民法上の財産所有権、使用権及びその関係と完全に同じものではなく、民法にすべて適用することができません。例えば、村民は、村集団という土地所有者の構成員であるので、村の一員という身分のみによって村から無償で土地使用権を取得します。このような村民の身分制限、使用無償、所有者である村の回収権(公共の利益を除き、勝手に村民の使用権を回収することができない)の制限などのことは、民法上の財産所有権や使用権と違っています。残念ながら中国では土地の私有が認められていません。





中国における土地所有及び使用制度

このように、中国の土地所有制度は、土地の私有が認められる日本の制度と、大きく異なっています。
日本の土地所有制度では農民の農地所有権が認められ、村集団所有という制度はありません。



Q11 土地の使用権について教えてください。

A11 土地の使用権は、土地の所有権を前提として、その土地を占有し、使用し、その土地からの収益をあげる権利であり、所有権の下位の権利です。土地の所有権者はその土地を自ら使用することはもちろんですが、その他、法律にしたがって、自分以外の組織又は個人に使用させることも認められています。

具体的には図2(Q10参照)のように、国有土地については組織(法人及び法人の資格をもっていない非法人組織)又は個人が経営を請負い、村集団所有の土地については本来の集団経済組織の成員が請負い、農耕、林業、牧畜業、漁業の生産に従事することができます(土地管理法14・15条)。

中国では、土地売買が禁止され、何れの組織又は個人であっても、侵害占有、他人への売買その他違法な土地の譲渡を行なってはなりません。しかし、土地使用権は法律の規定にしたがって譲渡することができます(土地管理法2条3項)。

すなわち、土地の譲渡の対象は永久的な「土地所有権」ではなく、「期限付きの土地使用権」です。 国家が土地利用者に使用権を払い下げる場合には、その最長期間を用途別に定めていて、工業用地は50年、住宅用地は70年、教育、科学技術、文化、衛生、体育用地は50年、商業、観光、娯楽用地は40年、総合的なその他用地は50年と規定されています(城鎮国有土地使用権出譲転壌暫行条例12条)。農地の場合には、農民が村集団から期限付きで農地を請け負って農業を営みます。その請負期間を土地類型別に定めていて、耕地は30年、草原地は30~50年、林地は30~70年と規定されています(農村土地請負法20条)。

また、土地の譲渡の方式について、無償使用と有償使用の二つの方式があります。無償使用(土地の割当て)とは、国が一定の組織に対して土地を割当て、無期限かつ無償で使用を認めるものです。

この土地の使用権の取得方式は、土地の所有権が認められないなら、使用権はどうにゃの?次のものに適用されます(土地管理法54条)。

○ 国家機関の用地と軍事用地
○ 都市の基礎施設用地と公益事業用地
○ 国家が重点的に援助するエネルギー、交通、水利等の基礎施設用地
○ 法律、行政法規が規定するその他の用地

有償使用とは、国家が、法律の規定によって国有土地の使用権の割当てを行う場合を除き、法律の規定にしたがい、国有土地の使用権の譲渡、有土地の賃貸借、有土地の使用権の値付けによる(土地の価値を評価して、その評価に基づき)出資又は株式の購入という方式で土地を譲渡することです(土地管理法2条5項・土地管理法実施条例29条)。 土地の売買は認められていませんが、使用権の譲渡は認められています。



Q12 土地使用権の転売について教えてください。

A12 日本では、所有者は法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有します(民法206条)。
すなわち土地の使用、収益及び処分は、土地所有者の当然の権利です。土地の所有権や使用権について、法の規定により相続と自由譲渡の標的となることができます。

しかし、中国では1982年に制定された現行憲法では、当初、土地の流通を禁止したことになりましたが、計画経済から市場経済への転換に伴い、1988年4月12日、この憲法が修正され、土地流通禁止条項を削除し、国家は公共の利益の必要のために法律の規定にしたがって、土地を収用することができると規定しています(憲法10条2項)。

そして、1988年の『土地管理法』では、土地の使用権と所有権が分離され、国有土地の使用権の払下げ・譲渡が認められました。そのため、都市部の国有土地の使用権については、個人のもっている土地の使用権を、第三者に転売することができます。

しかし、農村部の土地は農民にとって、普通の財産対象のみではなく、生業の保障という側面をもっているため、もし農民にその土地の使用権を自由に転売する権利を認めれば、生業できないことが多いと考えられます。土地を売っちゃおう。
この状況を防止するための政策的考慮に基づき、村集団所有の土地について、使用権をもっている農民がその土地の使用権を転売することは、原則的に禁止されています。すなわち、土地の使用権が法律の規定により移転される場合を除き、農民の集団所有の土地の使用権は、出譲、転譲又は貸し出して非農業建設用に使うことはできません(土地管理法63条)。 土地管理法では、国有土地の使用権の払下げ・譲渡が認められています。



Q13 土地収用について教えてください。

A13 図2(Q10参照)にみるように、農村の集団土地使用権は譲渡又は非農業建設用への賃貸が禁止されているため、起業者が農村の集団土地を使用する必要がある場合には、図3のように、まず国家によって収用の手続を利用し、土地の村集団所有権から国家所有へ転換し、そして、割当て(無償配分)又は払下げ(有償使用)などの方式によって、転換された国有土地の使用権を取得することになります。すなわち、農村の集団所有地を使用する場合には、国家による土地収用という手続が必要です。 土地収用の種類については2種類あります。






中国における土地収用
また、中国の土地収用の種類については、集団所有土地に対する収用と国家所有の都市の土地使用権に対する収用との二種類に分けることができます。

土地管理法は、集団所有土地に対する収用の他、「公共の利益のために土地を使用する必要があるなどの場合には、土地行政主管部門は、元の土地の使用を許可した人民政府又は許可権限を有する人民政府に報告し、その許可を受けて、国有土地の使用権を回収することができます。

また、村の公共施設と公共事業建設のために土地を使用する必要があるなどの場合には、農村集団経済組織は、元の土地使用を許可した人民政府の許可を受けて、土地使用権を回収することができる。国有土地や農民集団所有土地の使用権を回収する場合には、土地使用権を有する者に対して適当な補償を支払わなければならない。」と規定しました(土地管理法58、65条)。土地収用についてはいろんなトラブルが起こっているようだよ…。
このような回収は、日本土地収用法5条に定められた「権利の収用又は使用」に類似し、一般的に土地収用の一つと認められるが、「ただ土地所有者の所有権の行使に過ぎなく、土地収用ではない」という意見もあります。